病院に行こう


イタチがやってきて1ヶ月、はじめて外出することになった。仔フェレは生後1ヶ月のときに1回目のワクチンを射ち、そしてファームから出荷(なんかヤな言葉ですね)される。そのあと2ヶ月3ヶ月目と、2回ワクチンを射たなければならなく、今回が2ヶ月目。今日は獣医さんにかからなければならないのだ。
このきたる日のために僕たちはいろいろと準備をしてきた。移動用のキャリー、給水用のミニボトル、それからペットシート、などなど。最初お迎えしたときはショートケーキ2個分くらいのちっちゃなケーキ箱でも充分すぎる大きさだったのだけど、今度のキャリーはかなり大きい。中で自由に動き回れるくらいの大きさだ。お迎えのときは嫌がってきゅうきゅう啼いていたので、箱の中に入って運ばれること自体がトラウマになってやしないかなあ。そう心配していたのだけど、届いて組み立てると自分から中に入り、あまつさえくつろいでいる。箱と違って外が見えるのが良いのかもしれない。
10時半からの予約に間に合うように僕らも身支度し、キャリーの中を最終チェック。床には寒くなったら潜れるよう、なるたけ暖かなハンモックを敷いておいた。イタチを入れてちょっと重くなったキャリーを持ち、そして出発。ネット検索で見つかった獣医さんまで徒歩10分。なるたけ揺らさないようにキャリーをしっかり持つ。多少嫌がって啼くかと思われたイタチだけど、まったく啼かない。おとなしすぎるので逆に心配になってキャリーを覗き込むと、ヤツはいつもとおんなし様子。僕たち一安心。
そして着いたのがダクタリ動物病院。初診ということで持ってきた保証書(生年月日や生まれたファーム、1回目のワクチン接種日時が記載されてある。でもこれもなんかヤな言葉だな)を見せながら奥さんが手続き。僕は椅子に座って待ちながら傍らに置いたキャリーを覗き込んでみると、イタチはやっぱりいつも通り。つか、いつも以上に落ち着いている。逆に不自然。…ま、まさかおまえ緊張してる…!?
ほどなく診察室に呼ばれ、素敵メガネじゃない女医さんから問診。言われるがままにイタチをキャリーから出した瞬間、女医さん一言「でかっ」と発して絶句。やっぱおまえでかいんじゃん…。「年に比べて大きいんですかねえ?」「……んー、これは………やっぱり…んー」。女医さん言葉に詰まっとるがな。そんなやりとりもどこ吹く風のイタチはというと、やっぱりおとなしい。落ち着いてる。いつもなら外に出した途端部屋中走り回るのに、今日は診察台の上でちんまり座ってる。「おとなしいですねえ」。いや、違うんです違うんです!こいついつもはこんなんじゃないです!すぐに咬みつこうとするし、一瞬たりともじっとしてないやんちゃなヤツなんです!僕も奥さんもそう涙ながらに訴えたかったのだけど、そこはふたりともいいオトナなので、日本人特有とも言えるビジネス用の曖昧な笑いでごまかした。ちきしょうイタチこのやろう!この内弁慶が!
女医さんに後ろから掴まれてもイタチはまだおとなしい。僕が掴むと嫌がって下半身ぐりんぐりん振り回す(通称:ヘリコプター)くせに!さすがに注射の瞬間はぎゃあぎゃあ啼いたのでバイトの助けを借りたけれど、診察は滞りなく終わった。



 


そして支払いを済ませ、またてくてく歩いて帰宅。女医さんによると「注射後は足引きずったり、あとは食欲がなくなったり食べたものを戻したりすることがあるんで気をつけてくださいね」とのことだったので、おそるおそるキャリーから出してみる。扉が開いた途端に部屋の中へ走り出るイタチ。いつものようにソファーの裏から始めて部屋中走り回り(通称:パトロール)、膝の上に飛び乗ったかと思うと指を咬もうとする。エサ用意したらいつも以上に激しくがっついてる。いつもと一緒じゃん!女医さんのアドヴァイス台無し。つか、やっぱおまえって内弁慶なのね。
あと、そういえば女医さんも看護士さんも、イタチに対しては赤ちゃん言葉だったなあ。ぬぬぅ…。

新しい私、デビュー!したりしなかったり


街で洋服を着てる犬猫を見かけるたび苦々しく思い、ときには「ただの畜生になーに洋服着せちゃったりなんかしちゃってやがんだコノヤロウ」などと吐き捨てていた僕なのですけど、不思議なもので、ペットを飼い始めるとなんだかんだ洋服を着せたくなってしまった。今では気がついたら口半開きになりながら、通販サイトのフェレット用洋服コーナーばっかぼーっと眺めてる。別に買うわけじゃないのだけど、いい感じのやつを見つけるたびいちいち「これかわいい!」などと奥さんに報告しているわけです。ほんと、ひとって変われば変わるものよねえ…(遠い目)。
これに限らず、ペットを飼うことで僕は自分の中の新しい扉を次々と開けており、今まで知らなかった自分をその都度発見している。ときには別に開けんでもええ扉をバールのようなもので無理くりこじあけており、特にペット用洋服の扉なんかはいっそのことニューヨーカー並みの厳重さで鍵を二重三重にかけておけばよかったかもしれない。また、一方では自分の中ではめ殺しのままぜったい開かないようにしている扉があり、それが「赤ちゃん言葉」の扉だ。思うに今まで出逢った第三者って、フェレットワールドの店員さん始めみーんなフェレットに対して赤ちゃん言葉を使ってた。加えて、実は奥さんもときどきそれっぽくなる。それにひきかえ僕はそのへん頑ななので(なんせ扉をはめ殺しにしてるから)、イタチに対して赤ちゃん言葉なんかぜったいに使わない。いつでも命令調か、もしくはタメ口(イタチに対して「タメ」と言っている時点でなんかおかしいのだけど)。もうみんなしてよってたかって赤ちゃん言葉なのはうんざりだ。というわけで、今後僕は、あえてイタチ以外に対して赤ちゃん言葉を使うことにちまちたのでちゅ。なんせほら、僕って知るひとぞ知らないナチュラル・ボーン・アマノジャクでちゅから。

イタチ格言

  • 目が覚めたからといってすぐケージの外に出すことなかれ
    • すぐ出してしまうとまだ寝ぼけているので、部屋の隅やソファーの裏で粗相をしてしまうことがある。前科2犯。この防止策としては、目が覚めてもしばらくほおっておいて、立ち上がってケージの扉を前脚でひっかき始めてから出すとよい。
  • 爪切りと耳掃除は寝ている隙を狙うべし
    • だいたい週一の間隔で爪切りと耳掃除をしなければならないのだが、イタチは当然のごとく大暴れする。最初の頃はこちらもまだイタチの扱いに馴れていなかったため、嫌がってぎゃあぎゃあ啼かれると押さえつける手がどうしても緩んでしまい、どうにもうまくいかないことが多々あった。フェレット本には「バイト(おやつ的なもので、イタチはこれが大好物)を舐めさせながら、そちらに気を取られてる隙にやればよい」などと書いているのでその方法も試してみたのだが、これもあまりよろしくない。気を取られるどころか舐めながらもこっちをきっと睨んで本気で咬みついてくる。で、結局そういったルチャ・リブレ的な小手先の技術には期待できなさそうなので、最終的には往時の全日を彷彿とさせるストロング・スタイルに落ち着くことになった。僕たちはまるで熟練したSWAT隊員のように、イタチが寝ぼけてるうちに「GO!GO!GO!」「MOVE!MOVE!MOVE!」と声を掛け合いながら寝床から引きずり出し、僕が「DON'T MOOOOVE!FREEEEEEEEZE!」と叫びながら体と首を固定して動かないように押さえつけ、奥さんが手早く爪を専用バサミで切りそろえていく。終わったら手早くイタチをハンモックの上にほうりこみ、これで任務完了。耳掃除も同様の手順で行う。ちなみにイタチの爪には血管が通っており(爪から透けて見える)、これを傷つけないように切るのが肝心である。血管を傷つけても別に大怪我ではないのだけど、意外に出血するので正直ヒく。
  • マジ咬みしてきたらケージに戻すべし
    • 辛抱強く鼻っ面を指でぴんぴんしてきたおかげで、今では「…あっ、これにんげんさまのはだですやん…!」とわかると本気で咬まなくなってきたようだ。ただ、ヤツも眠くなってくるとその判断基準がなんやようわからんことになっているみたいで、いつもの甘咬みがマジ咬みにかわる。これが実に痛い。そんなときとりあえずは「おまえ眠いんやろがい!」とツッコんでおいて、すぐさま首根っこひっつかまえてケージにほおりこむことにしている。入れられた瞬間は「…えっ、ワシなんでいれられましたん?」と言わんがばかりにうらめしそうにこちらを見ているが、ふと気がつくとやっぱり寝ている。
  • 靴下は肌ではないものと心得たり
    • イタチには「足」という概念はなく、あくまで「人肌」を認識して咬む/咬まないを選択しているようだ。いつもならじゃれついても舐めるだけに留まる足も、靴下を履くと本気で咬んでくるので注意が必要。

フォトジェニック


せっかくペットを飼ってるんだから、やっぱ写真撮りたいじゃない?かわいい顔はいつまでも手元に置いておきたいじゃない?チャーハンは米がぱらっとしてる方が美味しいじゃない?そう思って僕たちも昼夜問わずイタチ写真を撮りまくったりチャーハン研究に余念がないわけである。ただ、ヤツはとにかく落ち着きがないので、写真を撮る瞬間がどうしても限られてしまう。せっかくだから起きてるときに撮りたいのだが、まず間違いなくブレてしまう。つまりシャッターチャンスは寝ているときにしかなく、僕たち夫婦のイタチフォルダにしまってある画像は9割9分睡眠中の写真である。そんな中からいくつか待ち受け画像にした。





これが初代。寝てる。





で、二代目。やっぱ寝てる。





三代目。もう、なんだかずーっと寝てる。




イタチが目を開けてる写真、いつかは撮れるようになるんだろうか…。

イタチ七不思議 その1


ダチョウ倶楽部の古いネタに「UFOキャッチャー」てのがありましてね、上島が客でリーダーが店長のゲーセンにやってきてですね、そんで「UFOキャッチャーしませんか?」つってですね、で、UFOキャッチャーのアーム役がジモンでですね、そんで景品を取ろうとしてもなかなか取れないっつーですね、こう文字で説明してもなかなかその面白さが伝わらない、つーかそもそもそのネタ自体面白いかどうかは別にしてですね、まあ大昔そういうネタがあったわけです。
前フリがえらく長いんですけども、イタチのケージの中にですね、飼い始めた当初から一応ハンモックを吊してはいたわけです。まだ小さくて登れもしないんですけどね。そのへんはほら、なんつーかイキフンで。「フェレット飼ってまっせ」的な、ええ。で、まあ前フリはここにつながるんですけど、ケージの天井開いてですね、そんでおもむろにイタチを持ち上げてですね、鼻歌歌いながら腕をゆっくり左右に動かしてハンモックの上にぼふっと落とすという「独りUFOキャッチャー」をですね、よくやってたんですよ。ダチョウのネタコピりながら。そんでイタチはハンモックに登ることはおろか降りることもできないわけですんでね、また持ち上げてはあっちこっちに動かして、最終的にまたハンモックの上にぼふっと落とすという、これを小一時間ずーっとやってたりしてたんですね。で、その僕の飽きもせずにやってるサマを見るに見かねたんですかね、結局奥さんの「それ虐待」の一言で強制終了と相成ったわけなんです。
そしたらある日ですね、仕事から帰ってきていつものようにケージを見遣るとですね、いつもなら床に寝そべってるはずのイタチがですね、なんとハンモックの上に乗っかってこっち見てやがんの。僕びっくりして、思わず「なんでおまえ上のっかってんの?」ってイタチを問い詰めちゃったりして。あんまりびっくりしたんで僕より帰宅が遅かった奥さんに「イタチ ハンモック ノ ウエ スグ カエレ」ってメール打っちゃったりして。そんで落ち着いてからよーく調べてみたんだけど、イタチの体長から考えて、たとえ立ち上がったとしてもハンモックの縁に前脚届くはずないんですよね。前脚さえかかればなんとかなるのかもしれないけど、絶対届かないわけ。もちろん跳び上がることなんてできないし。つまり、もうこれは「謎」と言ってもいいわけです。で、奥さんが帰ってきてからそのことを報告して、しばらく「イタチはどうやってハンモックに登ったのか」について話し合ったんだけど、当たり前ですがやっぱり結論出ないわけ。そんで最終的には「CIAが」とか「超古代文明が」とか「Y.H.V.H.が」とかもうなんだかよくわからないことになっちゃった。それにしてもあれはいったいなんだったんだろう。どうやって登ったんだろうなあ。今でもよくわからない。
あとあれだ。自分でもびっくりしたんですけど、イタチの「はじめて自分でハンモックに登る瞬間」を見逃すって、かなり精神的ダメージでかい。イタチごときでこんなだから、「我が子が初めて立った瞬間」なんか見逃した日には、1週間くらい寝込んじゃうんじゃないかしらん。

HAND MADE 家族 feat.僕


最終的にはフードもトイレ砂も手作りできるよう、製薬・食品会社の買収と工場建設用地の購入、あとイタチが入っちゃだめなところを段ボールとガムテで目張りすることを日夜画策している。