門前の小僧 習わぬ経を読めない


実家から東京に戻った僕たちはフェレットを迎え入れるための準備を始めた。ところがなにしろ二人ともペット初心者である。事前に仕入れる知識は多ければ多いほどよいだろう。僕たちはフェレットに関するありとあらゆる情報を二人がかりで集め始めた。情報源は主に、というか100%ネットから。文明の利器ばんざい!ありがとう電話線!頼んだぞグーグル!というわけで、電脳夫婦がマウスクリックに汗して集めた末、フェレットについてわかったことは以下の通り。

  • 日本で売られているフェレットは去勢・終戦除去済のものがほとんどで、通常「スーパー・フェレット」と呼ばれている。が、なぜか胸に「S」のマークはついてないしもちろん空も飛ばない。万が一空を飛んでいるとすれば、それはフェレットではなくモモンガである。
  • スーパー・フェレットは通常「ファーム」と呼ばれる場所で生まれ、検疫・手術などを済ませたのち幼体時にペット業者へと出荷される。空を飛ぶものは出荷されないで、特殊能力研究のために旧ソ連の流れをくむ秘密期間に送られる。
  • 「ファーム」の二大巨頭が「マーシャル」と「パスバレー」。互いがフェレットの総合商社として日々しのぎを削っている。つまり、山口組と稲川会のようなものである。ちなみにどちら産も空は飛ばない。
  • それぞれのファーム出身体には特徴がある。個体差はあるものの、一般的にマーシャル産はおとなしくパスバレー産はやんちゃ。マーシャル産はほとんど咬み癖がなく、パスバレー産には多少残っている。あとマーシャル産は酔うと脱ぐ。パスバレー産は頻繁にボトルガムを買うわりに、キシリトールの効用をそんなには信用していない。ちなみにどちらにも共通するのが「いつかは空を飛んでやる」という気構えに溢れているところ。
  • フェレットは寒さには比較的強いが、暑さには滅法弱い。なので、決してサウナに入れてはいけない。空を飛んだあと、たとえどんなにひと汗流したそうな顔をしていてもだ。
  • フェレットは飼い主に懐きやすく、根気よく教えれば、簡単なものなら芸を覚える。たとえば「お手」や「待て」、森進一の声帯模写やシルク・ド・ソレイユ風のショーなど。そして、このときフェレットは初めて空を飛ぶこととなる。


などなど。よし、これで完璧である。
かくして僕たちは中二男子の性知識バリに、事前情報を蓄えることだけはまんまと成功した。さああとはペットショップに行くだけだ!