そもそも


去年の暮れ頃から奥さんが突然何を思ったか「小動物を飼いたい」と言い始めたのがきっかけ。ハムスター・ウサギなどが候補にあがったのだけど、最終的にフェレットに決定。たぶん「飼いやすいし、なにしろ人間に馴れるらしい」とかそんな話をどこかで耳にしたからだと思う。
ところが奥さんは僕のOKが出たにもかかわらず、まだ本当に飼うかどうかは決めかねていたらしい。理由はというと、「はじめてペットを飼うから不安」とのこと。…あれ?確か奥さんの実家では、彼女が学生の頃まで猫飼ってたはず。「死んだときは泣いた」って言ってなかったっけ。僕がそう問うと、「あ、あれは『いた』だけだったから」。…なるほどナットク。ほかにも「共働きだから世話行き届かなくなったらどうしよう」や「つか、いつか死んじゃうじゃん」などといったことが心にブレーキをかけていたみたいだ。一方僕はと言うと、鼻くそほじりながら「ええがなええがな」「んなもん飼(こ)うてみなわかれへんがな」などと呑気な意見を繰り返していたわけだけど。
そんな奥さんの不安が一瞬で飛び去ったのは、年末実家に帰省したときのこと。たまたま実物のフェレットを間近で見る機会があったのだ。「実物のフェレットってけっこう匂うね」奥さん無視。「牙、わりと鋭いね」奥さんやっぱり無視。すっかり自分の世界に入り込んでしまい、ガラスケース越しにしばらく、いや小一時間ほどフェレットを眺めていたあと振り返った奥さんの目は、興奮と歓喜とで真っ赤に血走っていた。


「どお?」
「…カ"ワ"イ"イ"」
「(なんだこのきらきらした眼?)…で、どうすんの?」
「…飼う」


この一言ですべてが回り始めた。