ホーム・スイート・ホーム


家に帰り着いても仔フェレはまだ箱から出せない。まずは住環境を整えてやらねば。箱の中できゅうきゅう啼いている仔フェレを気にしつつケージの組み立て。
僕はもともと組み立て式家具が3度の飯より好きで、電動ドライバーでビスをぎゅるぎゅる留める行為に喜びを見出すタイプなのだ。このケージも組み立て式。胸が高鳴りテンションがあがる。仔フェレがいくら啼いてようが、「おうおうおうしゃらくせいやい。ちったぁ黙っていやがれぃ!」と初代続いた江戸っ子の血が騒ぐ。むやみやたらと「ちくしょうめ」「べらんめい」などと悪態をつきつつ、多少の試行錯誤があったにもかかわらず10分程度でケージ完成。…やっぱでかいな。まず置き場所をなんとかしなくちゃ。
事前の知識によると「テレビの前などうるさい場所は避けましょう」とのことだったのだけど、今のところ狭い我が家でケージを置く場所はテレビの前(真正面ではないが)付近にしかない。その旨B'z稲葉に相談したところ、「そんなに気にするほどでもないですよ」とのことだったので、やはり予定通りそこに置くことにする。
ケージの中に敷物とトイレ(砂敷き詰め済み)を設置し、天井からハンモックを吊す。隅にはエサ皿。生後3ヶ月くらいまではフードをお湯でふやかしたものがよいということで、それを皿の中に。側面には水を満たしたウォーターボトルをセットし、これで完成。ついでにおもちゃも転がしといてやれ。
そして、ここで、やっと、いよいよ、箱を開けることにする。おそるおそる蓋を開くと、下からのぞくのは警戒心丸出しの顔。「背中側から前脚の下をつかむように持つ」とのことで、そーっと手を伸ばす。背後の気配を察知したのか急に振り向く仔フェレ。手を引っ込める僕。頃合いを見計らってまた手をそーっと伸ばす僕。やっぱり気付いて警戒する仔フェレ。手を伸ばす、振り向く、手を伸ばす、振り向く、手を伸ばす、振り向く…って、もうやってられっかーい!僕はとうとうしびれを切らし、強引に仔フェレをつかんだ。きゃつは当然ながら大暴れ。首を伸ばして掴んでる人差し指をがぶり。「あたたたたた咬んでる咬んでるあたたたたた」僕は仔フェレをつかんだまま慌ててケージまで走り、やっとのことでケージの中に放り込んだ。
初めてのケージの中で仔フェレは落ち着かない様子。隅から隅まで臭いを嗅いでまわっている。僕と奥さんはそんな仔フェレの様子を、二人してケージの前で腹這いになって見つめる。なんだかやたらとくしゃみをしている。僕たちは腹這いのまま、「この部屋ほこりっぽいんちゃうか?ちゃんと掃除せえ!」「アホか!あんたの煙草のせいや!」と予期せぬ夫婦喧嘩。
それにしても、仔フェレはいくら見ていても飽きない。ときおり見つめる僕たちに気付いてこっちを見遣る顔が愛らしい。僕たちは食事も忘れてその一挙一投足を眺め続けた。空が薄暗くなる頃、仔フェレは周囲をひとしきり嗅ぎ回り終わり、やっと落ち着いたみたいだ。置いてあるエサに口を付け始めた。興奮して腹が減ったのか、凄い勢いで食べてる。少し安心。水も飲み方を教えないのに飲んでる。いちばん心配していたトイレも、一発目から迷うことなくトイレの隅に成功。すごい。おまえ頭いいな。僕らが躾することなんてなんにもないじゃないか。
ただ、「フェレットはハンモックが大好き」らしいのに、吊してあるハンモックにびたいち目もくれないのが気にかかる。もしかしたらこの子フェレは「リズム感のない黒人」「相撲の弱いモンゴル人」「辛いもの嫌いの韓国人」と同じく、世にも珍しい「ハンモック嫌いなフェレット」なのだろうか。と心配しながらしばらく眺めているうちに疑問は氷解した。あ、こいつまだ後ろ脚で立てねんじゃん。だいいちハンモックに手届かねえじゃん。わはは。こりゃあおじさん一本抜かれたなぁ!苦労して吊したハンモックをいそいそと外し、床に敷いてみる。すると仔フェレはハンモックのポケットに警戒しつつずりずりと入っていき、中でしばらくごそごそしたのちいつしか眠りに落ちた。
もともとフェレットという生き物は、一日の4分の3は眠っているらしい。いったん眠っちゃったらしばらくは目覚めないだろう。


夜が更けてもまだ仔フェレは目覚めない。僕たちは話し合った末、暖房はつけっぱなし、そのうえでケージに毛布をかけて眠ることにした。布団に入ったあと奥さんが独り言のように「かわいいなあ。飼ってよかったなあ」と何度も言うので、僕も「飼ってよかったなあ」と思いながら眠りに落ちた。


そんなわけで、



…あ、どうもはじめまして。イタチです。